大通西5丁目、ビルの隙間に潜む「時間」
札幌に積もった時間を歩く。大通西5丁目「大五ビルヂング」の物語
札幌の街を歩いていると、新しいビルが次々と建設され、景色がみるみる塗り替えられていくのを感じますよね。
でも、そんな再開発の真っ只中にあって、ふと足を止めたくなる場所があります。
それが、大通西5丁目にある「大五ビルヂング(大五ビル)」。
1954年に建てられた、御年72歳。
周りの高いビルに囲まれてちょっと控えめに立っているけれど、中に入るとそこには驚くほど濃密な「時間の質感」が広がっているんです。
「軍艦」と呼ばれた、どっしりとした佇まい

このビル、実はかつて「軍艦ビル」なんて呼ばれていたことをご存知ですか?
建てたのは羽幌炭鉱鉄道。
戦後間もない札幌で、まさに街の経済を支える「要塞」のような存在だったのかもしれません。
外観は、雨風に強いゴツゴツとした御影石。そのどっしりとした、揺るぎない立ち姿を見ていると当時の札幌の勢いが伝わってくるようです。
当初は5階建てでしたが、街の発展に合わせて7階建てに増築。
商社や石油会社、銀行など、当時の一流企業がここを拠点にしていました。
まさに、札幌の成長を見守ってきた「生き証人」ですね。
一歩踏み込めば、そこは別世界

私がこのビルを好きな理由は、中に入った瞬間の「空気の変化」です。
エントランスを一歩足を踏み入れると、外のガヤガヤした音がふっと遠のいて、ひんやりとした静寂に包まれます。

まず目に飛び込んでくるのが、壁一面の大理石。
徳島県から運ばれてきたというこの石は、何十年もの間、丁寧にお手入れされてきた証として今も優しく光を反射しています。
エレベーターのレトロなボタンひとつとっても現代のビルにはない「ものづくり」の誠実さを感じて、思わず見入ってしまいます。
そして、ぜひ注目してほしいのが「真鍮(しんちゅう)」の輝き。

ドアノブや窓の鍵、手すりの細かなパーツまで、至る所に真鍮が使われているのですがこれがもう本当に顔が映るくらいピカピカに磨き上げられているんです。
70年以上経っても古びるどころか、むしろ深い味わいが出ている。
「いいものを、長く、大切に使う」。そんなビルの持ち主や日々清掃される方々の誠実な想いが建物の隅々から伝わってきます。
圧巻の螺旋階段に吸い込まれる

大五ビルに来たら絶対に見逃せないのが階段です。 7階まで続く螺旋階段を一番上からそっと覗き込んでみてください。
規則正しく、滑らかな曲線を描いて階下へと続くその姿は、計算され尽くした「構造美」そのもの。
真鍮の手すりは、70年という月日の中で数えきれないほどの人に触れられてきたはずですが、驚くほど滑らかで一切の曇りがありません。
これは単なる「劣化」ではなく、大切に使い込まれてきたからこそ出る「質感」です。
派手な装飾があるわけではないのに建物の骨格そのものが美しいため、どこを切り取っても絵になります。
この幾何学的な階段やエスカレーターの造形は、まさに「構造美」を象徴するスポットと言えるかもしれません。
「現役」で在り続けるということ
最近の札幌では、歴史あるビルが取り壊されるニュースをよく耳にします。
でも、大五ビルは「保存のために残された」わけではありません。
「使えるから、壊されなかった。そして、使われ続けたから、もう壊せなくなった」
今も現役のオフィスビルとして誰かの仕事場であり続け、1階には誰でもふらっと立ち寄れる「大通美術館」がある。
この「生きた場所」であることこそが、大五ビルの何よりの魅力だと思うんです。
変わりゆく街の中で、私たちが「選べる」景色
大理石の床を歩きピカピカに磨かれた真鍮の手すりを眺めていると、ふと気づかされることがあります。
それは、新しいビルだけが街の正解ではないということです。
最新の設備が整った高層ビルはもちろん便利で快適ですが、70年もの間も手入れされながら使い続けられてきた大五ビルには、そこにしかない「落ち着き」があります。
それは単なる懐古趣味ではなく、この場所が今も現役のオフィスビルとして札幌の日常にしっかりと組み込まれているからこその説得力です。
再開発で街の景色がどんどん一新されていく今だからこそ、こうした「積み重なった時間」に直接触れられる場所がすぐそばにあるのは実はとても贅沢なこと。
皆さんも大通公園の近くを通った際は、ぜひふらりと立ち寄ってみてください。
「あ、札幌ってこういう時間も大切にしてきたんだな」と、街の奥行きを肌で感じられるはず。
そんな発見があるから、札幌の街歩きはやめられないんですよね。
札幌市中央区大通西5丁目11-1 大五ビルディング
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