大通公園周辺のビルの高さ制限をめぐる動き
――札幌らしい景観をどう守るか――
いま、大通公園の周辺で「高さ制限」をめぐる議論が注目を集めています。
背景にあるのは、近年加速している大通地区の再開発です。
公園沿いには新しいビルやホテルが建設され、街の姿が変わりつつあります。
近代的になり便利になるその一方で、「このまま開発が進むと、大通公園らしい開放的な景観が失われるのでは」という懸念も少なくありません。
札幌市が現在検討しているのは、大通公園の両側の建物の高さを60メートルまでにおさえる案です。
これは、市が定めた「大通交流拠点まちづくりガイドライン」に基づいて検討されているもので、「大通公園の環境を守る」という方針の一環なんです。
60メートルという数字の理由
なぜ「60メートル」なのか。
札幌市の資料にはその理由が二つ示されています。
一つ目は、圧迫感を防ぐためです。
公園で過ごす人々から見て、ビルが60メートルを超える高さになると、視界の中に建物の壁面が広く占めるようになります。
そうなると、公園の持つ解放感が損なわれ、心理的な圧迫感を与えてしまうおそれがあるとされています。
札幌市内では外壁の色や材質などに一定の基準が設けられており、建設する側にとっては、より景観に調和したデザインを検討する機会にもなっているようです。
引用:札幌市
二つ目は、日照の確保です。
高いビルが立ち並ぶと、太陽の光がさえぎられ、公園内が日陰になってしまいます。
資料によると、もし高さが60メートルを超える建物が連続して建つと、冬至の日の正午でも公園の半分近くが影になると試算されています。
こうした理由から、60メートルという高さが一つの目安として設定されているのですね。
引用:札幌市
ちなみに現在ある建物で高さ60メートルを超えるビルは以下です。
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北洋大通センター(高さ96m)
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ザ・ライオンズ大通公園タワー(高さ94.99m)
- 大通り西4丁目南地区再開発(建設中)は高さ185mの予定です。
「セットバック」という工夫
ただし、この高さ制限は「絶対に60メートルまで」と決めているわけではありません。
すでに建築予定の建物にはそういった規制はありませんし、市のガイドラインでは60メートルを超える建物を建てる場合でも、「セットバック」と呼ばれる設計上の工夫を求めています。
セットバックとは、建物の上層階を少し後方に引っ込めて建てる方法です。
公園側から見たときに、建物全体が壁のようにそびえ立つのではなく、空に向かって段階的に後退する形状にすることで、視覚的な抜けと空の広がりを保つことができます。
例えば北3西3に竣工したばかりのヒューリック札幌ビルを見ると、上の方のデザインが変わる部分で建物がキュッと奥に入っている部分があります。
そこから上がホテルになるのですが、このキュッとなった部分がセットバックしている部分です。
さらに、ガイドラインでは、高層部分の建物がぎっしりと並ばないように間に一定の隙間を設けることも推奨しています。
こうした「スキマ」があることで、公園から見上げる空やテレビ塔の姿がより印象的に保たれるという考え方です。
引用:札幌市
大通公園の価値を見つめ直す
札幌の街の中心に位置する大通公園はご存じの様に単なる緑地ではありません。
冬の雪まつりや夏のビアガーデンなど、季節ごとの行事を通じて市民の暮らしと結びつき、札幌を象徴する場所として長く親しまれてきました。
その存在は、都市の骨格を決める「軸」としても重要です。
東西に続く公園の軸線が、市街地の構造を形づくり中心部の景観を特徴づけています。
こうした空間的な価値を守ることは、単に見た目の問題ではなく「札幌らしさ」という都市の個性を次の世代に引き継ぐ取り組みでもあります。
経済と景観のバランスを探る
一方で、高さ制限の導入に対しては経済的な懸念の声もあります。
ビルの高さを抑えることで、容積率を十分に活用できず収益性が下がる可能性があるという指摘です。
とくに再開発が集中するエリアでは、土地の価格や投資効率への影響を心配する事業者も少なくありません。
ただ近年では、世界の都市で「良質な景観」が経済的価値を生む例も増えています。
たとえばパリやウィーン、京都などは、歴史的な景観を守る厳しい高さ規制を設けながら、その魅力を観光や都市ブランドとして活かしています。
札幌もまた、「自然と調和した都会」としての魅力を強みにできる都市です。
公園とビルが共存するバランスを見極めることが、これからのまちづくりに問われているのかもしれません。
未来の札幌に向けて
「60メートルルール」は、単に建物を制限するルールではありません。
大通公園の空の広がり、日差しの心地よさ、そして公園で過ごす時間の豊かさを守るための仕組みです。
札幌らしい景観を守りながら、都市としての成長も続けていく。
その両立の方法を考えていくことが、これからの私たちに求められています。
改定素案はいまのところ最終策定や運用開始を2026年秋ごろを目指していると報じられています。
大通公園を見上げる空が、これからも変わらず広く感じられるように。
今この議論が注目されるのは、きっとその未来を見据えた大切な一歩なのだと思います。
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